「Fake」 五十嵐貴久/幻冬舎文庫

Posted by h-wired on 8月 29th, 2007
2007
8月 29

謳い文句に「日本版スティング」とあったのでとりあえず的に。
よくも悪くも本当に日本版スティング。最終的な騙し部分は物理トリックとして少し無理がある気もするが、そもそもミステリとして書かれている訳ではないし、伏線もきっちりしているので許容範囲か。インパクトを与える事には成功していると思う。こういったイカサマ系の常として、「情報の差を得ている」という緊張感が継続して書かれている。メインの事件に差しかかるまでの、いわゆる発端の事件にも緊張感のあるシチュエーションが使われており、全体的に上手く仕上がっている。
厚みからしても結構な分量があるはずだが、それを一息に読ませてしまう引きの強さは素晴らしい。キャラ立てもしっかりしており、続きものとしても上手く纏められるだろう。一定以上は確実に楽しめる良作。

2007
8月 27

全ての要素が事件の収束の為に用意された、実によくできた本格ミステリ。舞台が学園にも関わらず登場人物が総じて老成しすぎていて、物凄いハードボイルド成分を醸し出している。リアリティに欠けるというきらいもあるだろうが、個人的には高校生を必要以上に幼く書いていない部分に逆に好感が持てた。こんな高校生だってありだと思う。トリックに関しても、物理、状況ともに考え尽くされており隙がない。読者に気づきを得させ、考えさせる伏線も充分で、久しぶりにミステリらしいミステリを読んだ気分。

本番の物理トリックに伴って叙述トリック的に伏せられている部分が多々あり、それがハードボイルド文体と合わさって少々冗長になっている向きはある。序盤でその叙述のうちの一つに気づいてしまい、自分の学園もの好きもあって終始ずっと萌え続けていたのは秘密だ。一つ一つを切り取ると既存のトリックと似通っているものが殆どで、元作品の例示ができるほどだが、組み合わせる事でその印象を違ったものにできているところが受賞の最大の所以だろう。
最後の最後での大きなミステリ的カタルシスを期待してしまうと肩すかしを食うかもしれないが、総じてレベルが高い。違和感なく読み進められるかどうかを軽く店頭で判断して、大丈夫だと思えば買って損はないはずだ。人に勧められる価値のある一冊。

「イナイ×イナイ」 森博嗣/講談社新書

Posted by h-wired on 8月 13th, 2007
2007
8月 13

「Xシリーズ」と題して新章突入。
と銘打ってはいるが、やはり森博嗣、「全体で作品」の姿勢は一貫している。ここまでくると楽しめる人間が相当限られてくる。前情報なく単体でこれだけを読んでもさほど大きな面白さは得られないだろう。パズルのピースであり、単体の価値はさほど高くない。
しかし、今まで読んできている人間に対する配慮は相当大きいように感じられた。噛み合った時の面白さは格別。特にVシリーズが好きな人にお勧めしたい。

2007
8月 13

映画のパンフレットで初見。そのパンフレットの絵面の閉鎖空間っぷりが素晴らしく、閉鎖空間好きとして要注意、とタイトルを記憶していたが、その後寄った本屋にて原作文庫があったので衝動的に購入。読む直前に著者のプロフィールに劇団「大人計画」の文字があるのを確認して、「どこかで聞いた名前だ」と少し考えて思い出した。フリクリのナオタパパの声の主。個人的にあの演技は相当好きな部類に入る。意外な形での再会。
内容としては閉鎖空間度はさほど高くなく、むしろ社会的な閉塞感に終始している。普段余り読まない文体だったので、最初は多少抵抗があったが直ぐに慣れた。話の構造の面白さで魅せるタイプの物語ではなく、文体と、一人称の意志の力強さで引っ張っている印象。表現が限界まで直接的で、人によってはあざといと取る向きもあると思われる。好みが分かれるところだろう。映画的になるとしたらこれはどうか、と思える表現も多々あるので興味がある。うまく時間が作れれば映画版も見てみたいと思う。

過去編の超人バトルっぷりはアレだったが、ちゃんと現代への伏線を多重に兼ねている辺りは凄い。指先のガードにさえ潜伏的に意味付けがされているのも見事。トリック的に考えると敵役の年齢が多少反則気味かな、と思わなくもないが、許容範囲。クライマックスである。相変わらず原作には手を出せていないが、知らない状態でこれを読める、というのはある意味幸せなのかもしれないと思い始めた。コミック版が完結してから原作を読もうと思う。