2008
4月 28

再録分も含めて一通りクリア。
 
携帯コンテンツが初出であるシナリオをまとめ、新作である表題作「きえないこころ」を加えたボリュームのある一本。前作「いにしえの記憶」と基本ラインは変わらず、再録コンテンツがほぼ半分を占める。個人的には全て初見だったので充分な満足度があった。既に携帯版をプレイしている人にとっては評価は変わるかもしれない。
システムとしては基本総当たり的なADVだが、これは歴代そうなので慣れの部類かもしれない。とはいえ、もう少し新しい要素が欲しかったという気持ちもある。ところどころシステム的に洗練されていない部分もあるが、進行上とくに差し障りはなく許容範囲。
 
やはり表題作「きえないこころ」がシナリオ的に頭一つ抜けている感があった。良くいえばリアルな探偵観、悪くいえば冗長な依頼をこなすところからスタートするが、キャラ立てがかなりしっかりしており、関係者全員が意志を持った人間であるという表現がよく生きている。当然、事件もそれにあわせた複雑な様相を呈する。推理する際に適度に混じってくる、排除すべきノイズの要素が、リアルな探偵観をさらに強調している。ミステリ的な暗号がメインに用意されてはいるが、神宮寺という作品は過去代々ミステリではない。所々にはさまれる謎解きの要素も、本気で考えなければ解けないような厳しい難度ではない。(必要なかったのでは? と思う要素も数カ所あったが)
全てがドラマを完成させるために用意されている。非常に綺麗に纏まったシナリオだった。個人的なシリーズに対する思い入れを差し引いたとしてもなお評価できる佳作。

読了。

「殺人事件が起きるまで」を非常に詳細に描いている、ミステリとしてはかなりの異色作。前作として位置づけられている「扉は閉ざされたまま」の人物が出てきてはいるが、物語としては完全に別のものになっているので、これを最初読んだとしても違和感はないだろう。相変わらずこの作者の描く登場人物の動機は変わっていて、「犯人に殺される為に状況を作る主人公」という設定。この一見非常識ともいえる動機を、巧く状況を設定する事によって、ある程度自然に見せる事に成功している。主人公の視点からの描写も見事で、「犯人は”主人公はこう考えるだろう”と考えるはずだ」といった頭脳戦的な展開が実に読ませる。
 
事件が起きていない以上、解決に向かっているというカタルシスはないし、いわゆるミステリ的なトリックも配されていないが、視点、時系列、殺人の意志などが非常に美しく組み合わせられている。さらに、ミステリとしての構造も面白く、「読者が与えられた情報を元に犯人を推理する」形ではなく、「与えられた情報を元に、探偵役がいかにして犯人を推理するに至ったかを推理する」というメタ構造的なミステリになっている。おそらく、そのミステリ部分を意識せずに読んだとしても、サスペンス的に面白く読めてしまうはずだ。この完成度には参った。
 
ミステリを読む人にも、そうでない人にも勧められる秀作。面白かった。