「紫色のクオリア」 うえお久光/電撃文庫
Posted by h-wired on 8月 19th, 2009
2009
8月 19
「悪魔のミカタ」の著者が電撃HPに掲載した、イラストレータとのコラボ企画短編を、書き下ろしを含めて一冊の長編にしたもの。
タイトルに含まれているクオリアをはじめとするちょっとした哲学的な要素が、SF設定に実に見事に折り込まれている。基本的に主人公の一人称で物語は進行するが、SF的トリック(あるいはレトリック)でそれが高速に破壊され始めるくだりは圧巻。
帯の概要にもある「他者がロボットに見える人物」という設定は、どうしても火の鳥の未来編を連想してしまうが、実に順当に(そして表題に忠実に)その予想を裏切ってくれる。そして、そこから導き出される破壊的な展開は、読者が無意識的にしている期待を遥かに凌駕している。
SF的な理詰めでの展開を見せる本作だが、やはり締めの部分は主人公の動機に行き着く。あまりの速度での理論展開に慣らされてしまった読者は、一瞬これを期待外れと感じてしまうかもしれない。しかし、発生した物語の原点を考えると、最早これ以外ない、といえる完全な締め方である。
ネタバレを避ける為に抽象的な話に終始してしまったが、積極的な興味を持たない人間でさえ一気に引き込むことのできる、非常に力に満ちた作品なので、少しでも気になった向きは是非手にとってもらいたいところ。特にハヤカワSFを読むような人間は必携といえるだろう。損はしない。
SFとしてもライトノベルとしても、近年稀に見る傑作。